母親のジュリアは息子のまわりに透明な保護膜をはりめぐらしていたが、アンディはエリー・サイモンに励まされて、それを少しずつ剥がしはじめた。美術教師のメアリ・A・マッキビンもアンディの脱皮に一役買った。とはいえ、マッキビンは後年の回想で、アンディとはそれほど親しくなかったと語っている。
アンディの内気さは一種の防衛だと思った。真っ白な肌と奇妙なしみのせいで、自分は奇形(フリーク)だと思い込んでいたのである。エリーのように親しく声をかけてくる者には疑いの目を向けていた。悪たれのガキどもがはやしたてる現実の世界は、アンディにとって戦場だった。そんな現実から逃れるため映画スターの世界に遊び、自分もいつかスターの仲間になるという空想に耽った。早くも1941年9月から自分を守る綿密な計画を立てていたのだ・
エリー・サイモンとミス・マッキビンは、アンディに最良の防衛は目の前にあるものを描くことだと気づかせた。現実は紙の上にスケッチすることで手なずけられる。何年ものち、ドル紙幣や頭蓋骨や電気椅子まで、あらゆるものを手なずけたアンディは勝利の声をあげることになる。
参考文献/「伝記 ウォーホル パーティのあとの孤独」フレッド・ローレンス・ガイルズ著 野中邦子 訳